会長挨拶
日本では2千万人以上が慢性痛に悩まされているといわれますが、その対策は先進国の中で最も遅れています。無効な治療に使われている莫大な医療費を活用し、数兆円とも言われる慢性痛による経済的損失を減らすことは、日本にとって喫緊の課題の一つです。
2016年はこの課題の解決に向けて大きな進歩が期待されます。必要額にはまだまだですが、厚生労働省の「平成28年度予算案の主要施策」に慢性痛対策が初めてとりあげられました。また、「慢性痛対策基本法(仮称)」の議員立法も見込まれています。さらに、アジアで初めて国際疼痛学会総会が9月に横浜で開催される予定です。
「学際的」というと、臨床面が注目されることがほとんどです。しかし、Dr.Bonicaをはじめとする痛み学の先達たちが目指したものは、臨床・研究・教育・広報という幅広い面で、様々な分野の人々が密接に協力して痛みに対処していく、というものでした。
第9回のテーマ、「さらに ひろがりを もとめ」の「ひろがり」には、医療者だけでなく、患者さんやその家族、マスコミを含む一般社会、行政府や立法府や経済界、海外の同志達までもイメージしています。学問分野としては、医学だけでなく、哲学、歴史、文学、社会学、人類学、法学、経済学、教育学などへのひろがりも必要でしょう。縦方向、すなわち、次世代へもひろげていかなければなりません。このひろがりは、水平方向・垂直方向・時間方向の4次元へのひろがりです。
第9回学会では、テーマを具現化するために、いくつかの新機軸を考えています。しかし、学会を創っていくのは、参加される皆様方です。痛み治療に興味がある方ならば、立場を問わず、ぜひ参加していただきたくお願い申し上げます。
日本運動器疼痛学会の目指すところは、痛みに対する生物心理社会的な考え方・対処法を広めることだと思います。対象は、医師だけでなくすべての医療者、そして患者さんやマスコミも含む一般大衆。もちろん、行政府や立法府や経済界にもひろめていかねばなりませんし、海外の同志達の協力も不可欠です。
さらにいうと、医療の分野だけでなく、それ以外の学問分野―哲学、歴史、文学、社会学、人類学、法学、経済学、教育学…―にもひろげていくべきでしょう。
さらにさらに、これは私たちの世代で終わらせてはならず、次世代へもひろげていかなければなりません。
これらのおもいをこめて、「ひろがり」という言葉を選びました。このひろがりは、水平方向・垂直方向・時間方向の4次元へのひろがりです。ひらがなにしたのは、人によって様々な受け止め方をしてほしいからです。
「もとめ」と中途半端に聞こえる止め方をしたのは、私たちの活動はまだ進み始めたばかりであり、今後一層動きを速め、強めてほしいからです。
このテーマを検討している際に、漠然としすぎている、とか副題をつけたほうが良いのではないか、というご意見もいただきました。しかし、私はむしろ、漠然として様々な捉え方ができることにこそ意味がある、と考えています。なぜなら、本学会の根本とする「痛み」は、主観的であり、各個人が成長の過程で学習していくものであり、その捉え方はまさに様々だからです。
第9回日本運動器疼痛学会 大会長
東京慈恵会医科大学附属病院 ペインクリニック診療部長
北原雅樹