この度、令和4年(2022年)7月より日本女性腎臓医の会(JSWN)の代表世話人を続けて務めることになりました。皆様からの期待に、身の引き締まる思いです。
JSWNは腎臓病学を志す女性医師が研究・診療の課程で、女性に起こりやすい困難や壁を全国の志を同じくする方々で共有し、相互交流や勉強の機会を設けてこれらに立ち向かい、その本来の力を発揮して患者さんや社会に力強く貢献することを目標としております。2003年に立ち上がり、2023年(令和5年)に20周年を迎えます。この間、全国総会での勉強会や、女性研究者支援を旨とする学術奨励賞の授与、さらに全国各地で開催されている地方会の拡充への支援を通じて、その活動は広がりと、深みを増していることを確信しております。
腎臓病学は日進月歩で進み、それの先頭に立って医療、研究に臨むためには継続性(sustainable)のある自己鍛錬とそれを支えるシステムが必要で、たとえ立ち止まることがあってもいつでも再開が可能な環境でなければなりません。昨今の日本腎臓学会や日本透析医学会からの発信もあり、このシステムは現場においてもかなり改善はしてきていますが、つねに進歩を求めていくことが必要です。
一方、医療界や国際情勢は昨今激動の時代を迎えております。2020年から医療界を直撃した新型コロナウィルスのパンデミックな感染の広がりは、医療現場での混乱や、学会をはじめとする研究・診療の勉強の機会が制限され、相互の交流も一時困難となりました。しかし、新たな交流法として定着したWeb会議やオンライン勉強会には、どこからでも参加が可能となり、遠方にいたり、子育て中の会員の皆様にはある意味では参加のハードルは低くなり、何もかもが悪いことばかりではないとも考えられます。
しかし、2022年のジェンダーギャップ指数116位が示すように、わが国では若い女性の現場参加は進んでいると思われますが、この指標が示す「政治、経済のみならずすべての現場での意思決定機関に女性が参画すること」は、この20年での進歩は遅いというのが現実で、腎臓病学においても例外ではありません。これらに対して、女性腎臓医の視点から、若い方々を前に押し出し、中堅の先生には全体を見渡して指導やシステム構築への提言を行うことを薦めるなど、先輩医師は後輩に声をかけ、情報共有の機会を増やすことがさらに求められています。
JSWNではさらに上を目指す道筋と、地域格差のない情報の広がりを目指して、志ある女性腎臓医の力をますます引き出していくことで広く社会に貢献したいと考えております。
もとより、これらの活動には会員自身の自助努力では十分とは言えず、今後とも力強いご教示ご支援を関係するすべての皆様から賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
令和4年7月
日本女性腎臓病医の会
代表世話人
武曾惠理
この度、本会の代表世話人に就任いたしました武曾惠理(むそう えり)です。
前任の湯村和子先生よりバトンをいただきました。
この会の発足は2003年にさかのぼり、男女共同参画基本法が成立した1999年のあと、医学界では早い時期に、腎臓分野に特化した女性医師の抱える諸問題に対して声を上げることが必要と、初代代表世話人である当時の虎の門病院腎臓センター部長原茂子先生のもと有志が集まって第一回の総会を開きました。女性腎臓医師として,研究や臨床での様々な場所で「出産・育児の壁」、「ガラスの天井」など多くの問題があることを、日本各地から先生方が集まり改めて認識しあうことが出来ました。またこれらの状況を切り拓いてキャリアアップしている先生の体験を直接きくことで、力をもらう貴重な機会でもありました。
2005年に日本腎臓学会への働きかけを行い、日本腎臓学会男女共同参画委員会が発足し、委員長としてその設立に関わりましたが、そのきっかけは、発足後のJSWNにおける総会での、会員同士や特別講演の先生方との交流によるもので、委員メンバーにもJSWNから多くの先生が参加しました。
その後世間では、医学界のみならず男女共同参画活動は広く行き渡ってきており、問題点の集約はなされ、様々な改革もされてきているようですが、某医科大学での入学試験における女性差別の顕在化、世界におけるジェンダーギャップ指数の我が国の低迷など、まだまだ道遠しというのも現実です。
医学界の中でも腎臓医療にたずさわる女性医師は,比較的その活動スタイルのバラエティーがあり、人生の様々な局面で,フレキシブルにキャリアをすすめていくことの可能性は高いと思われます。しかし、どのような分野でも、まだまだ困難はあり、少数派であることもあり、場合によっては孤立して立ち往生することもしばしばみられます。そのようなとき、女性同士での忌憚のない交流や相互の支援体制は男女共同参画活動とはまた異なった役割があり貴重です。JSWNでは,日本全国での地域に根ざした女性腎臓医のコミュニティーを尊重し、さらにこれを全国から持ち寄って一堂に会して,交流、勉強の機会をもつことで、困難を乗り越えていける場を共有するべく活動を続けて来ました。
活動の中心は、従来は年に一度の皆が集まる総会での意見交流と地域活動の報告でしたが、さらに2014年からは、若手女性研究者への研究奨励賞制度を発足し、現実には後回しにされる傾向のある女性研究者の顕英を特化して行い、その研究キャリアに受賞を加えていただけるようになりました。
今後も、女性腎臓医同士の交流と組織を維持,発展することによるガバナンス力の向上など自己啓発で活力を押し上げ、一般市民の方にも女性腎臓医ならではの情報発信を行うことも含めて、豊かな腎臓病医療の実現に貢献したいと考えています。
もとより、これらは我々の自助努力のみでは不十分で、多くの方々の支えやご指導が必要です。何卒我々の活動にご支援をよろしくお願いいたします。
令和元年5月
日本女性腎臓病医の会
代表世話人
武曾惠理